井の中の蛙 [詩]



井の中の蛙

大海を知らず

ただ

大空の深さを知るのみ





井戸の中に住む蛙は、大きな海など知らないが…

しかし、井戸の上に見える大空の深さを知っている…








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八木重吉 「ことば」 [詩]

八木重吉


詩稿「ことば」

 
  


 
 うつくしいことばかりわかって 

 人のたくらみはわかるな
 
 わたしよ
 
 でないと つかれてしまふぞ




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島崎藤村  千曲川旅情のうた [詩]

島崎藤村


「落梅集」より


  
  千曲川旅情のうた


昨日またかくてありけり

今日もまたかくてありなむ
            
この命なにを齷齪

明日のみを思ひわづらふ

          
いくたびか栄枯の夢の
 
消え残る谷に下りて
 
河波のいざよふ見れば
 
砂まじり水巻き帰る

     
嗚呼古城なにをか語り
 
岸の波なにをか答ふ

過し世を静かに思へ

百年もきのふのごとし

 
千曲川柳霞みて
 
春浅く水流れたり
 
たゞひとり岩をめぐりて
        
この岸に愁を繋ぐ


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北原白秋 邪宗門 [詩]






WHISKY.


夕暮(ゆふぐれ)のものあかき空(そら)、


その空(そら)に百舌(もず)啼(な)きしきる


Whisky(ウイスキイ) の罎(びん)の列(れつ)


冷(ひや)やかに拭(ふ)く少女(をとめ)、


見よ、あかき夕暮(ゆふぐれ)の空(そら)、


その空(そら)に百舌(もず)啼(な)きしきる。









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汚れちまった悲しみに [詩]



汚れちまった悲しみに 中原中也






汚れちまった悲しみに

今日も小雪の降りかかる

汚れちまった悲しみに

今日も風さえ吹きすぎる

 

汚れちまった悲しみに

たとえば狐の皮衣

汚れちまった悲しみは

小雪のかかってちぢこまる

 

汚れちまった悲しみは

なにのぞむなくねがうなく

汚れちまった悲しみは

倦怠のうちに死を夢む

 

汚れちまった悲しみに

いたいたしくも怖気づき

汚れちまった悲しみに

なすところもなく日は暮れる


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竹久夢二  宵待草 [詩]

竹久夢二  宵待草



待てど暮らせど来ぬ人を 

宵待草のやるせなさ 

今宵は月も出ぬさうな





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中原中也 [詩]



夜更の雨



      べルレーヌの面影


雨は 今宵も 昔 ながらに、
  昔 ながらの 唄を うたつてる。
だらだら  だらだら  しつこい 程だ。
  と、見る  べル氏の あの図体が、
倉庫の 間の 路次を ゆくのだ。

倉庫の 間にや 護謨合羽(かつぱ)の 反射(ひかり)だ。
  それから 泥炭の  しみたれた 巫戯けだ。
さてこの 路次を 抜けさへ したらば、
  抜けさへ  したらと ほのかな のぞみだ・・・・・
いやはや のぞみにや 相違も あるまい?

自動車 なんぞに 用事は ないぞ、
   あるかい 外燈なぞは なほの ことだ。
酒場の 軒燈の 腐つた 眼玉よ、
   遐くの 方では 舎密(せいみ)も 鳴つてる。











六月の雨


またひとしきり 午後の雨が
菖蒲のいろの みどりいろ
眼うるめる 面長き女
たちあらはれて 消えてゆく

たちあらはれて 消えゆけば
うれひに沈み しとしとと
畠の上に 落ちてゐる
はてしもしれず 落ちてゐる


お太鼓叩いて 笛吹いて
あどけない子が 日曜日
畳の上で 遊びます

お太鼓叩いて 笛吹いて
遊んでゐれば 雨が降る
櫺子(れんじ)の外に 雨が降る



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我が放浪 : アルチュール・ランボー [詩]

 我が放浪 : アルチュール・ランボー



 俺は歩いた 破れたポケットに両手を突っ込んで
  外套もポケットに劣らずおあつらえ向きだった
  大空の下を俺は歩いた ミューズを道案内にして
  何たる愛の奇跡を俺は夢見たことか

  一張羅のズボンにもでっかい穴があいていた
  俺は夢見る親指小僧よろしく道々詩に韻を踏ませた
  俺様の今夜の宿は大熊座
  あちこちにきらめくは我が星座

  俺は聞き入る 道端にしゃがみ込んで
  九月のこの良き夕空に浮かぶ星たちのささやきに
  すると夜露がワインの滴となって俺の額を濡らし

  俺はいよいよ韻を踏むのに夢中になると
  膝を胸に引き寄せて竪琴のように抱え込んでは
  靴の紐を引っ張って楽器のかわりにしたのだった






Ma Boheme : par Arthur Rimbaud

  Je m'en allais, les poings dans mes poches crevees ;
  Mon paletot aussi devenait ideal ;
  J'allais sous le ciel, Muse ! et j'etais ton feal ;
  Oh ! la la ! que d'amours splendides j'ai revees !

  Mon unique culotte avait un large trou.
  - Petit-Poucet reveur, j'egrenais dans ma course
  Des rimes. Mon auberge etait a la Grande Ourse.
  - Mes etoiles au ciel avaient un doux frou-frou

  Et je les ecoutais, assis au bord des routes,
  Ces bons soirs de septembre ou je sentais des gouttes
  De rosee a mon front, comme un vin de vigueur ;

  Ou, rimant au milieu des ombres fantastiques,
  Comme des lyres, je tirais les elastiques
  De mes souliers blesses, un pied pres de mon coeur !




1870年8月、15歳のランボーは家を出てパリに向かった。
自分の体を売って得た僅かの金で、隣駅のモーオンまで切符を買い、
そのまま無賃乗車をしてパリ駅までたどり着いたのだ

しかし、パリに着いたランボーは無賃乗車のほかに、スパイの嫌疑を
受けてマザスの監獄にぶち込まれてしまった。

前の月に普仏戦争が勃発し、プロシャ国境に近い町シャルルヴィルから
やってきた不審な少年はプロシャのスパイと疑われたのである

「我が放浪」は、この最初の放浪を詠んだものだと思われる。

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土井晩翠 [詩]

星落秋風五丈原


 (一)
祁山(きざん)悲秋の風更けて
陣雲暗し五丈原 ・
零露の文は繁くして ・
草枯れ馬は肥ゆれども ・
蜀軍の旗光無く ・
鼓角の音も今しづか。 ・
 * * * ・
丞相病篤かりき。 ・

清渭の流れ水やせて ・
むせぶ非情の秋の声 ・
夜は関山の風泣いて ・
暗に迷ふかかりがねは ・
令(れい)風霜の威もすごく
守るとりでの垣の外。 ・
 * * * ・
丞相病あつかりき。 ・

帳中眠かすかにて ・
短檠(たんけい)光薄ければ
こゝにも見ゆる秋の色 ・
銀甲堅くよろへども ・
見よや侍衛の面かげに ・
無限の愁溢るゝを。 ・
 * * * ・
丞相病あつかりき。 ・

風塵遠し三尺の ・
剣は光曇らねど ・
秋に傷めば松柏の ・
色もおのづとうつろふを ・
漢騎十万今さらに ・
見るや故郷の夢いかに。 ・
 * * * ・
丞相病あつかりき。 ・

夢寐に忘れぬ君王の ・
いまはの御(み)こと畏みて
心を焦がし身をつくす ・
暴露のつとめ幾とせか ・
今落葉(らくえふ)の雨の音
大樹ひとたび倒れなば ・
漢室の運はたいかに。 ・
 * * * ・
丞相病あつかりき。 ・

四海の波瀾収まらで ・
民は苦み天は泣き ・
いつかは見なん太平の ・
心のどけき春の夢 ・
群雄立ちてことごとく ・
中原鹿を争ふも ・
たれか王者の師を学ぶ。 ・
 * * * ・
丞相病篤かりき。 ・

末は黄河の水濁る ・
三代の源(げん)遠くして
伊周の跡は今いづこ、 ・
道は衰へ文弊ぶれ ・
管仲去りて九百年 ・
楽毅滅びて四百年 ・
誰か王者の治を思ふ。 ・
 * * * ・
丞相病篤かりき。 ・


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